友達に会いに徳島県神山町へ行ってきた
来年52歳になるaw(僕)ですが、この年になってくると少し考えはじめることがあります。それは「あの友だちとあと何度会うことができるだろうか」ということです。
地元で出会った友達がその後引っ越したり、僕自身20年近く県外で暮らしていたこともあって他県で暮らす友達も多いのですが、そんな友達と「今度会おう」となると、お金も時間も、仕事や生活の調整も必要になってきます。これが、友だちと会うというごく単純な行為の高いハードルになり、毎日のように顔を合わせていた友達と年に一度会えたらラッキー、くらいの状況になっています。
現在の日本人男性の平均健康寿命は72.57歳※1。仮にこのとおりに生きられれば、僕が健康に暮らしていける時間はあと20年です。年に一度のペースで会っていても彼らに会うことができるのは残り20回ほど、死ぬまでこのペースを保ったとしても30回くらい※2です。
僕の余命が平均よりも少なければ会える回数はこれよりも減りますし、会う頻度が落ちても減ります。
人生の終わりを意識しはじめると、人間、自分にとって何が大切なのか、自分の時間をどのくらいそこに割くべきかを考えはじめるようになるわけですが、友達との時間がそこに含まれるようになってきました。
ふつうに暮らしていれば自然とその時間を持つことができた環境ではなくなっていて、自分から積極的につくっていかないとそうした時間は持てないので、「あの人に会いたい」と思ったら行動に移す必要があると気づいたのです。
というわけで
11月末、徳島県神山町に暮らす友達に会ってきました。
彼女(Mさん)は、僕が東京のネット通販企業で働いていた時の同僚で、当時は一緒にランチに行ったりお酒を飲みに行ったりする仲でしたが、Mさんが退社し、僕も帰郷した後は年に1〜2度メールを交換するくらいで、直接会って話す機会は全くありませんでした。
今年になってMさんが、期間限定で徳島県神山町に移住して仕事をしていると聞き、ふと「あ、Mさんに会いに行こう」と思ったんですよね。そこで同じくMさんと仲良しだった、先月2年ぶりにブラジルから帰国したばかりのKさん(東京在住)に声をかけると「行く」とのことで、一緒に神山町を訪問することになりました。

久しぶりに瀬戸大橋を渡りました
徳島県神山町は、山間地域でありながら全国的に注目される「サテライトオフィス誘致」の先進地。行政と民間が連携し、光回線整備や古民家改修を進めたことで、多くのIT企業やクリエイターが移住・拠点化。地域住民との協働プロジェクトも盛んです(神山町については、文末に参考となる書籍やWEB記事を掲載しておきますので、気になる方はご覧ください)。
Mさんは神山町に拠点を置く某企業に期間限定で属し、耕作放棄地となった石積みの棚田、遊休地や放置林などを活用した二拠点居住者や移住者向けのセカンドハウス、ホテル、地域内外のクリエイターや居住者が集まる複合施設を建設するプロジェクトを推進しています。

Mさんのオフィスは、かつて蔵だった建物
僕が利用した宿泊施設「WEEK神山」も同じような流れでスタートしたそう。施設の利用者もプロジェクトのメンバーとして、体験し学びながら、神山町での時間と関係性を深めていく。そんな意図があるようです(多分)。
もちろん、WEEK神山の利用者がみんなそういう人というわけではなく、ごくごくふつうに宿泊施設として利用される方も多いです。僕も一利用者としてのんびりと過ごさせてもらいました。

受付、食堂のある「母屋」は古民家をリフォームしたもの
部屋も実にシンプルで眺望も最高だったんですが、僕のカメラの腕ではいかんともしがたかったので、気になる方はWEEK神山のホームページをぜひご覧ください。僕が利用したのはダブルルームです。

僕の泊まった部屋からの窓景。岩の表情がユニークな鮎喰川
せっかくなので、雨乞いの滝※3にも行ってきました。
雨乞いの滝は、森の奥にある三段の名瀑で、雄滝と雌滝の2つがあります。
雌滝
雄滝
森の奥と言っても整備された遊歩道が設けられており、うぐいす滝、不動滝、地獄淵、もみじ滝、観音滝などの小ぶり滝が点在しています。これらが小気味良いタイミングで姿を現すので、単調になりがちな道程も退屈しません。
個人的には、遊歩道脇にごろごろしていたたくさんの巨岩が気になりました。

WEEK神山の脇を流れていた鮎喰川も河岸が石でしたし、このあたりは岩が多い土地なんですかねぇ。
下山後はMさんの自宅、これまた見事にリフォームされた素晴らしい古民家で、徳島の名産かぼすをたっぷりとつかった鍋を囲み、昔話や近況、アホなネタ(これが中心)など、深夜まで語り合いました。
・・・
メディアやネットなどで見かける神山町に関する情報は、それを読む者に、先に書いたようなIT企業の誘致に成功し、山間部にありながら過疎を解消した町のような印象を与えます。しかし実際は、面積およそ173km2の同町にコンビニが1件だけ。スーパーも小規模なものが数えるほど。現在の人口4000人強は50年前と比べて3分の1、10年前と比べても4分の3近く減少と急速に過疎が進んでいます。
確かに発信されている情報(文末参照)を読むと元気な町に見えます。でも同じような町は僕の地元、鳥取にもあって、外の人が触れる情報と現地の状況との乖離が大きいことは地元の人間なら誰もが知っているわけです。
もちろん、それによって神山町や僕の地元が取り組んでいることが否定されるものではありませんし、一面的とはいえ発信された情報が神山町と同じ立場に置かれた地方都市に勇気を与えてくれる可能性は大いにあります。が、問題はそう簡単に解決するものではないと肌で感じた次第です。
大塚国際美術館
翌日、神山町を朝9時半頃に辞去してMさんと別れ、Kさんと向かったのは同県鳴門市の大塚国際美術館。
同美術館は、世界の名画を原寸大で再現した陶板を展示する珍しい美術館です。誰もが知る名作が陶板(セラミック)に焼き付けられることで半永久的に劣化しない作品として生まれ変わり、さまざまな方法で展示されています。その数、1000点以上。
同美術館の大きな特徴は、作品に直接触れられることです。


ぴと
宗教建造物などに直接描かれている作品を、その建造物の形状のまま再現した環境展示も特徴の一つです。

システィーナ礼拝堂

スクロヴェーニ礼拝堂
古代、中世、ルネサンス、バロック、近代、現代と時系列に作品が並べられた系統展示も、長い歴史を持つ西洋美術の変遷を理解するのに役立ちます。
さらに「家族」「食事の情景」「生と死」など作品に与えられた主題で分類されたテーマ展示も興味深かったですね。
とにかく展示されている作品数が膨大で、開館から閉館までみっちり滞在したとしても、好きな時代やジャンルの作品鑑賞にほんの少しでも没頭してしまったら、その他の作品を楽しむ時間が足りなくなってしまうはずです。

「ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョセフィーヌの戴冠」ジャック=ルイ・ダヴィッド

右/「イーゼンハイムの祭壇画」ニコラウス・ハーゲナウアー、マティアス・グリューネヴァルト

「モナ・リザ」レオナルド・ダ・ヴィンチ

「最後の晩餐」(修復前)レオナルド・ダ・ヴィンチ

「ヴィッカーズ家の娘たち」ジョン・シンガー

「デルフトの小路」ヤン・フェルメール

「ゲルニカ」パブロ・ピカソ

「ファンゴッホの寝室」フィンセント・ファン・ゴッホ

「黒い貨物船」ラウル・デュフィ

「ニヴェルネ地方の耕作」ローザ・ボヌール
帰宅してからカメラのメモリをチェックしてみると、「あれ、なんでコレ撮ってるんだろ」とか「あ〜、アレ撮り忘れてる!」とかそんなのが多くて、撮った作品に対する温度感がバラバラだったりするのですが、メモリに残っているものを一部掲載してみました。
こうして見ると分かりますが、大きな作品は複数の陶板を組み合わせて構成しているために、つなぎ目が見えます(僕は全く気になりませんでしたが、一緒に行ったKさんはかなり気になったとのこと)。
陶板は近くで見たらかなり大きく、大きいものでは1辺が3メートルに及ぶそうです。大きな陶板を歪みなく焼き上げるのはとてつもない技術が必要らしいので、制作を担っている大塚オーミ陶業の宣伝(技術力の高さの宣伝)にもなっていそうです。大塚オーミ陶業、大塚製薬といった企業を擁する大塚グループの大塚正士氏は、地元徳島県への感謝や還元を目的に、この美術館を設立しました。日本一高い入館料としても有名な同美術館ではありますが、これだけのものを立ち上げ、観光に一役も二役も買っているわけですから※4、ただただスゴイなと。
非常にオススメの美術館です。
・・・
徳島県に友達を訪問した翌週は、東京でかつての同僚たちと会いました。中には15年ぶりに会えた友達も。話題の中心となったのが「老眼」という、なんとも時の流れを感じさせるネタだったわけですが、以前一緒に働いていた時のように、「今日ランチ行く?」「いいね」くらいのノリで食事しているような壁のなさが本当に嬉しく、ついつい飲み過ぎてしまいました。
- 厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(PDF)
- 厚生労働省「主な年齢の平均余命」(PDF)
- 神山町「雨乞の滝(あまごいのたき)」
- 僕たちは平日に訪問しましたが、かなりの人手でした。週末はすごいことになってそうです。
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参考記事
- 「神山 地域再生の教科書」篠原 匡
- 「神山プロジェクト 未来の働き方を実験する」篠原 匡
- 「神山進化論: 人口減少を可能性に変えるまちづくり」神田 誠司
- IDEAS FOR GOOD「【徳島特集 #2】ITとアートとサテライト。「創造的過疎」神山町のいま」
- おおお知るまちプロジェクト「#36-1 大岡山の外のまちでは…? (神山町編) 〜神山町ってどんなところ?〜」「#36-2 大岡山の外のまちでは…? (神山町編) 〜神山の人と人をつなぐ人・場所〜」「#36-3 大岡山の外のまちでは…?(神山町編)~”好き”で神山を盛り上げる人~」


