「新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?」を読んでみた

以前、働いていた会社の同僚が上梓したと聞いて、そしてそれが教育関係の本だと聞いて、すぐに買い求めました。


「新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?」

かつての同僚が本を書くことは珍しいことではないのですが、それはたいていビジネス本。

が、中には教育関係をはじめ、別領域に大幅にキャリアチェンジする人もいます(前にご紹介した『子どもの才能を伸ばす最高の方法モンテッソーリ・メソッド「自律した子」の育て方すべて』もそうですね)。

以前の職場の同僚たちは本当に優秀だったので、新しい領域でもちゃんと成果を出し、一定のステータスを築くんですよね。

この「新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?」を上梓した竹村詠美さんも、非常に優秀な方です(と僕が言うのもおこがましいくらい。簡単なプロフィールな文末に掲載しておきます)。

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本書は、これから激しく変化しますます混沌とするVUCAな(*1)時代を生きていくことになる子どもたちに、本当に必要となるのはどのような教育か、なぜそう考えられるのかを、経緯や背景を含めて具体的且つ詳細に解説し、日本を含む世界各地で実践される先進的な事例を豊富に紹介しています。

舌を巻いたのはその圧倒的な情報量

著者の竹村さんはあるインタビューで、「これまでのキャリアから教育に関心を持って活動を開始した4〜5年前から情報収集、取材したエッセンスをまとめた」と話していましたが、本当に驚くべき情報量。内容もさることながら、この点に僕は感銘を受けました。

僕の紹介記事ではなく、とにもかくにも本書を読んでいただくのが一番なのですが、今の僕なりに感じたことを書き留めておきたいと思います。

・・・

これから時代は、狩猟社会(ソサエティ1.0)、農耕社会(ソサエティ2.0)、工業社会(ソサエティ3.0)、情報社会(ソサエティ4.0)に続く、新たな社会(ソサエティ5.0)に移行すると言われています(*2)。

ところが、実際の教育現場では、2つ前の世代である工業社会(ソサエティ3.0)の時代に発明、発展してきた標準化やテスト成果主義など認知能力を高めることに焦点をあてたものがほとんど。ようやく情報社会(ソサエティ4.0)に備えた方向性に舵を切り、動きはじめたところです。

新たに到来するソサエティ5.0では、認知能力だけではなく非認知能力が重要になると本書は言います。

様々なテクノロジーが生まれ生活が便利になっていく一方で、深刻な気候変動や自国第一主義が進む政治、成長しない経済、感染病による地域間の断絶、貧困や広がる経済格差など、これからの時代はこれまで以上に混沌としていきます。

「これを選択すれば大丈夫」という正解のない時代を生きるうえで、記憶力に頼った認知能力だけでは足りないのは誰が考えても明らかです。

既存の問題に加えて、まだ認知されてもいない課題を発見して可視化し、仲間と協働して解決に向けて取り組んでいくためには、記憶といった「低次の思考スキル」だけではなく、記憶した情報を深く理解し、実践した結果を分析・評価し、新たな価値を創造していく非認知能力が不可欠です。

特に4Csという4つの非認知能力すなわち、コミュニケーション(Communication)、批判的思考能力(Critical Thinking)、コラボレーション(Collaboration)、創造力(Creativity)から構成される学ぶ力とイノベーションスキルは、これからの時代の読み書き算盤に並ぶスキルとして世界中から注目されている。(p20より抜粋)

他社と「コミュニケーション」し、「コラボレーション」(協働)するためには、これらのスキルを1人の子どもが突然変異的に獲得するだけでは当然ダメで、多くの子どもたちが基本的なスキルとして身に着けることが求められます。

また、「批判的思考能力」や「創造力」といった非認知能力は、世界のトップ企業が人材に求めるスキルの上位に入っており、今後社会で活躍し、成功するための必須能力とも言われています。

ゆえに、教育そのものが変化していく必要があるわけです。

本書は、こうした非認知能力を子どもたちが健全に育むためには、子ども1人ひとりの個性を尊重した、頭だけではなく心と体(Whole Child)も含めた教育が必要だとし、世界、主に米国で進められている研究や、実践されている教育のフレームワークやメソッド、そこから得られた研究結果や知見などを紹介、教育現場の変革を実現するためにどのように活動していけばよいかを提言しています。

一部をご紹介すると、「体験学習」「SEL(Social Emotional Learning)(*3)」、「プロジェクト学習(PBL)」や「探究学習(IBL)」、「デザイン思考」や「アート思考」、「ウェルビーイング」といった、最近よく耳にするキーワードについて、その狙い、開発されてきた経緯や内容、実践例、そこから導き出されるメリットや課題まで網羅されていますし、美術や舞台、ダンスといったアート活動が認知能力の向上にも有効であるというデータが得られており研究が進んでいるといった話や、(COVID-19の影響もあるが)オンラインを活用しつつも学生たちが暮らすそれぞれの地域と直接関わり合いながら体験学習できるプログラムを提供する先進的な大学の例など、教育関係者のみならず、子どもを持つ親(ある意味で教育関係者ではありますね)が強く関心を持つであろう情報が満載(本当に満載)でした。

上記で紹介した内容はごくごく一部で、本当に様々な情報が記載されていますので、一読しただけでは僕の頭脳では到底理解できず(笑)。手に取りやすい場所に置いて、何度でも読み返したいですね。

書名にある「エリート」の文字

ただ、一点だけ、この本にネガティブな印象を持った箇所があります。

書名です。

エリートというワードは「選民」という言葉を連想させますし、日本ではかなり偏った意味で認識されていて、あまりポジティブな使われ方をしない印象があるので、この本を求めている人、触れるべき人に届きにくくなるのではないか、と感じたからです(杞憂だといいのですが)。

この言葉がかなり偏った認識、使われ方をしているということは、逆に言えば、日本での子どもの(そして大人も)評価軸が偏っているということではないでしょうか。

エリートを冠した別の言葉では、エリートアスリート(エリート選手)などがパッと思い浮かびますが、これはスポーツ界において、ですよね。

これを伸展させて、僕は「エリート自分」でいいと思うんですよね。自分という存在、世界において自分はエリートであるということなのですが、それくらい全ての子どもは自己肯定感、自己効率感を持つべきじゃないかと(真面目です)。

自分は何者なのか

本書に書かれているような教育が、娘が実際に学校に通いはじめる頃に(あと1年半しかないですが)、日本でももっと広まったらいいなと思います(実際、今年から施行される新教育指導要領(*4)に書かれている目指すべき姿は、この本に書かれているものとほとんど同じなんですよね)。

こうした教育が日本でも広まるように、自分にできることは何かしら協力したい、動きたいと思ってしまうほど、本書からは筆者の情熱をひしひしと感じました。

個人的な解釈ですが、こうした非認知能力は、究極的の問いの一つである「自分は何者なのか」について深く思考し、答えを見出し(あるいは仮説を立て)、実践して評価し、自分の人生を創造していく…… このためにあるんじゃないかと思うんですね。

学びは、自分が幸せになるための一つの手段でですよね。自分がどんな人間なのか—何に興味があり、何が好きで、どんなことに情熱を注ぎたいと思っているのか、何が得意で不得意なのか—を知ることは、それ自体が自分の道標になると思うんです。

認知能力だけを追求している今の日本の若者は、そんな問いを立てることすらありません(YouTubeのある動画で、現役東大生とディスカッションする茂木健一郎さんが「なんで高校時代にやりたいことが見つからない日本なんだろう……」と呟くのですが、僕はいつもこの問いを思い起こします)。

もちろん、僕が若い頃、そんな問いを立てることなんてありませんでした。子どもができてから、ようやく考えるようになりましたね。

娘には、次社会の必須スキル、非認知能力を身に付けて、この壮大で深淵な問いにぜひ挑んでほしいなと願います。


竹村詠美さん
一般社団法人 FutureEdu 代表理事、一般社団法人 Learn by Creation 代表理事、Peatix.com 共同創設者・アドバイザー
慶應義塾大学経済学部卒業、ペンシルバニア大学MBA、同国際ビジネス修士。マッキンゼー米国本社やアマゾン、ディズニーの日本法人など外資系7社を経て、2011年Peatix.com を共同創業。マーケティング責任者やアジア代表を歴任。グローバルなビジネス経験を活かした教育活動に取り組み、全国で教育ドキュメンタリー上映・対話会や教育イベント「Learn by Creation」を主催し、教員研修も行うほか、総務省情報通信審議会委員なども務める。2児の母。

*1 VUCA = ブーカ、ブカ。Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の4つの文字の頭文字から取った言葉。ビジネス用語として広まったが、元は軍事用語。
*2 内閣府 「Society 5.0
*3 参考: 日本SEL推進協会
*4 政府広報オンライン 「2020年度、子供の学びが進化します! 新しい学習指導要領、スタート!
*5 文部科学省 「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」(PDF)

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Live in Tottori-Pref, JPN. Love Camp, Sandwich, Coffee, Beer and Scotch on the rock. Pursuing Self-Sufficiency Life.

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