モンベルのベビーキャリアで熊野古道を歩いてみた

トム(妻)の、「日本にある世界遺産を家族で巡ってみよう」というアイディアに乗っかり、今回、行くことにしたのは、和歌山県の熊野古道

富士山は結婚式を兼ねて2014年に登ってきたし、ハナレグミのライブで広島に行った際に、原爆ドームと厳島神社に立ち寄ってきたので、二人で行く世界遺産は4/20か所目(2016年7月24日現在、文化遺産と自然遺産あわせて20、登録されています)。

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小笠原諸島も検討していたのですが、子どもがまだ小さいのであまり遠方には行かれず、屋久島のような長時間登山をするようなハードな場所もまだ無理なので、ちょっとした旅行にもちょうどいいのではと熊野古道に決めました。ベビーキャリアも買いましたしね。

世界遺産・熊野古道

熊野古道は、本宮、新宮、那智の熊野三山に参詣するための道。世界遺産は、熊野三山を含む3つの霊場(熊野三山、吉野・大峰、高野山)と、それらを参詣するための道(熊野参詣道、大峯奥駈道、高野山町石道)が対象となっていて、正式には「紀伊山地の霊場と参詣道」という名称で世界遺産登録されています。

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ちなみに、「道」が世界遺産の対象となるのは世界的にも稀で、他には「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」くらいのようです。

出発前に飛び込んできたニュース

出発のちょうど1週間前に、こんなニュースが飛び込んできました。

熊野参詣道にツキノワグマ出没 まだ子供か (産経新聞)

熊野古道のある紀伊半島はツキノワグマの生息地ですから、いないとは思っていませんでしたが、こうして目撃されたと報道されると、やはり心配になります。小さな子どもを連れてくわけですし。

そこで熊スプレーの購入を検討してみました。

しかし、このスプレーのことを調べると、使用に際してかなりのリスクがあること、もともとグリズリー種の大型の熊を撃退するための製品なので、ツキノワグマに対して使用すると過剰な苦痛を与えてしまうことなどがわかりました(*)。

また、今回歩く「発心門王子〜熊野本宮大社」までの道程は、距離が短くて下り道が多いため人気が高く、多くの参詣者が歩いているルート。もともと熊の出没率はかなり低いと思われますが、熊野古道の参詣経験者が集まるSNSで情報交換したり、過去や最近の状況を確認しました。

これらを踏まえて熊スプレーの購入は見送り、熊鈴を携帯する、熊が苦手とする先端の尖ったものを持つ(トレッキングポールで代用)、残置して気を引くための小さな袋を持参するなど、最低限度にはなりますが、こうした対策をとることにしました。

熊野古道を歩いてみた

前述したとおり、熊野古道で最も多くの参詣者が歩いたとされる中辺路のうち、発心門王子(ほっしんもんおうじ)をスタートして熊野本宮大社までの、およそ7kmの参詣道を歩いてみました。全行程を通じてほとんど下り坂で、2〜3時間で踏破できることから、初心者向けとされるコースです。

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詳しいマップはこちらからご覧になれます(Googleマイマップ

発心門王子を出発

ホテルからスタート地点である発心門王子まで送ってもらい、子どもをベビーキャリアに乗せて、参詣を開始!

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体重8kgちょっとの子どもを2kgのベビーキャリアに乗せると、その他の荷物を合わせて12kg前後。結構ズッシリ来ます(汗)。7kmの行程、耐えられるかな?

ちなみに、上の写真は社殿側から撮影したので、別の王子へと続く鳥居が写っていますが、実際の発心門王子はこんな感じ(Wikipedia)

「王子」とは、熊野古道に祀られた熊野権現の御子神のことで、熊野九十九王子と言われることから分かるように、たくさんの王子があります(九十九は実際の数字ではなく「たくさん」という意味)。昔の参詣者たちは、この王子を巡拝しながら熊野に向かっていたそうで、たくさんある王子の中で格式が高いとされる5つが、五体王子と呼ばれています。発心門王子はその五体王子のうちの一つです。

伏拝の集落

歩き始めると、すぐに小さな集落に出ます。伏拝(ふしおがみ)の集落です。

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野菜やお茶の小さな畑と民家が立ち並ぶ中を歩いていきます。ずっと昔からここにあったであろう民家は、古いのですがとても綺麗に手入れされていて、くたびれた感じはあまりありません。

道の脇にあるブロックは、びっしりと苔生していて、まるで抹茶をふりかけたチョコレートみたいです。

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発掘によって見つかった2000年以上前の実から現代に甦った大賀ハスが、集落の人たちによって栽培されています。

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ただ、今年は小ぶりで、あまり良い生育状況ではないようです。琵琶湖にある日本最大のハスの群生地(滋賀県草津市)でも、今年はほとんど葉も花も見られない大事件が起きているようですが、何か関連はあるんでしょうか?

集落を抜け、林道へ

集落を抜けると、杉林の中に切られた林道に出ます。熊野古道を歩いてる、という実感が強まります。

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林道の両脇は背の高い杉の木に覆われているので、景色を楽しみながら、というよりは、ずっと昔にここを歩いて参詣していた人たちの様子を想像したり、霊験場の雰囲気を味わいながら歩いて行きます。

当日の天気は薄曇りだったのですが、杉はきれいに枝が落とされているので、林の中でも暗さを感じることはありません。

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杉の下で、広葉樹たちもすくすくと成長していました。

見事な杉林を見上げる僕と子ども(後者はすでに爆睡中)。

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伏拝王子でお昼休憩

スタートから1時間ほどで、伏拝王子(ふしおがみおうじ)に到着。発心門王子を起点とする本コースのちょうど中間点で、無料の休憩所と綺麗なトイレがあります。

ちょうどお昼時だったので、ここでお弁当を食べてのんびり休憩。普段体をあまり鍛えていないのが祟ってか、子どもを背負っての山歩きは結構ヘビーだったのですが、山間を抜ける気持ちのいい風に癒されました。

この伏拝王子は、はるばる京都から熊野本宮大社を目指して200km以上歩いてきた参詣者たちが、ここから、かつては熊野川の中州に建っていた社殿を見て、感動のあまり伏して拝んだとされる場所。

僕もそのビューポイントに立って、旧社殿跡地とそこにある鎮守の森を探してみました。

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全く分からない……(笑)。多分、中央に白っぽく見える辺りだと思われますが、よく分かりませんでした。

表情豊かな熊野古道

気を取り直して、再び歩き始めます。

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熊野古道の林道は、土が踏み固められていたり、石畳だったり、石が積まれて階段になっていたりと、表情豊か。

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共通しているのは、排水路が小まめに設けられているということ。この地域は昔から降水量が多く、地面の土がすぐに流されてしまっていたことが理由のようで、石畳が採用されているのもその対策の一つ。参道ならいざ知らず、長大且つ数多くある参詣道に大変な手間と労力のかかる石畳が用いられているのはすごいですね。

熊野本宮大社

発心門王子を出発してからおよそ3時間で、ようやく熊野本宮大社に到着!

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熊野本宮大社は、スサノオノミコトが主祭神で、Jリーグのシンボルマークとしても知られる八咫烏(やたがらす)が至るところに祀られています。

平安時代、皇族・貴族の間に熊野信仰が広まり、京都から熊野古道を通って上皇や女院の一行が何度も参詣したという熊野本宮大社。

室町時代になると、武士や庶民、大勢の人が絶え間なく参拝に訪れるようになりました。その様子は「蟻の熊野詣」と例えられるほど、凄まじい人出だったようです。

熊野古道を歩いている時は、ほとんど外国人にしか会いませんでしたが。

いまの熊野本宮大社は小高い丘の上に建立されていますが、かつては熊野川の中州に建っていました(建立は飛鳥時代、615年)。1889年(明治22年)の熊野川水害で押し流されたのです。

ホテルから発心門王子に送ってくれたドライバーさんからこの話を聞いた時、「中州に建てるなんて何と愚かな」と思いましたが、明治に入って急激に伐採された山林が保水力を失い、それによって洪水が引き起こされたのが理由とのこと。

考えてみれば、もともと雨の多い地に1200年以上、無事にそこにあったわけで、ほんの数十年の所業でこの結果。考えさせられます。

その中州、つまり、かつての社地に、現在は日本最大の鳥居が建っています。

大斎原(おおゆのはら)と言い、高さは33.9メートルもあり、異様な存在感を持っています。

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大き過ぎて、ちょっと遠近感を失いますね。

現在はパワースポットとして、多くの人が訪れているようです。

結局、熊は?

この記事の前半にも書いた「熊問題」ですが、全く問題ありませんでした。

地元のホテルの方などに聞いても「この辺りには出ない」と言われてましたし、熊野古道で出会った僕たち以外の参詣者は、ほぼ全員が熊鈴すら持ってませんでした。

今回、幼い子どもを連れて行くということで神経質になっていたのは事実ですが、しかし山では何が起きるか分かりません。「こんなところに熊が出るなんて」となってからでは遅いわけですし。

何事もなかったことに安心しきらず、今後も山に行く際には、用心して臨みたいと思った次第です。

おわりに

参詣した日の天候は薄曇り。時々日が差して木漏れ日が落ち、杉林を風が抜ける気持ちのよい日でした。

こんな日なら、どこを歩いても気持ちが良いかも知れません。

今回の旅は、まだ幼い子どもを含め、家族みんなで自然の中で時間を過ごしたいという思いから計画したものだったので、それが無事に果たせ、しかもとても気持ちの良い時間だったことで、大きな満足感を得ています。

鳥取県から熊野本宮大社のある和歌山県田辺市までは、車でおよそ5時間。子どもがいるのでたっぷり休憩を取ったことで8時間以上かかりました。

この距離もあって、田辺市には三日間滞在したのですが、二泊した「わたらせ温泉」も、今回の旅を心地よくしてくれたものの一つです。フレンドリーだけどカジュアル過ぎない、気持ちのよい距離感と、幼い子どもがいる状況に最大限、配慮してくれたことが本当にありがたかったです。

子どもが大きくなったら、また熊野古道を歩きに来て、ここに泊まりたいですね。

その前に、日本にある世界遺産は全制覇しておかねば!

* 巨体のグリズリーを攻撃するために作られている熊撃退スプレーは、人間が浴びると失明するほどの強力な刺激性があり、且つ油性タイプのため、簡単に洗い落とせないという特徴があります。そのため、自分よりも風上から熊が出没した場合は使用することが困難で、しかも僕の場合は赤ちゃんを背中におぶっているという条件もあり、購入は見送りました。
参考情報:
熊よけスプレーの実態及び危険性の勧告
熊撃退スプレーを浴びてみたらヤバかった/PHANTOM TRAVELLER

aw

Live in Tottori-Pref, JPN. Love Camp, Sandwich, Coffee, Beer and Scotch on the rock. Pursuing Self-Sufficiency Life.

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