「宇宙からの帰還」を読んでみた

今年もたくさんの著名人が亡くなりましたが、作家の立花隆さんもその中の一人でした。

積読になっていた本の中に氏の代表作の一つ、「宇宙からの帰還」があるのを発見したので読んでみたのですが、これが驚くべき傑作で(ご存知の方も多いとは思いますが)。なんで長いこと積読にしてたのか後悔したくらいです。

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超優秀な男たちが、これ以上ない俯瞰で地球を見た話

この本を一言で語るなら、そういうことです。

そして、それが異様なまでに面白いんですよ。

なんとなく会話調と言うか、話が少し逸れたり別の話題に振れてまた戻ってきてを繰り返しながら(しかしそれが実は後の話題を理解するための知識になっていたりする)進んでいく話も気持ちいいし、そしてとにかく、宇宙飛行士たちの話が強烈に面白いんです(そもそも僕は宇宙飛行士たちの言葉に関心を寄せていた時代があり、僕が最も好きな言葉もある宇宙飛行士のものです)。

今や民間人でもISSに滞在できる時代ですが、アメリカがソ連と宇宙開発を競っていた1960年代は「アメリカを代表する宇宙飛行士たる者こうであるべき」という偶像が完璧に確立されていました。

勇敢で賢く、家族や仲間を大切にし、篤い信仰と爽やかな笑顔を併せ持つ……冷戦時代の国家間競争の先陣を託したいと国民が思い、計画に注入される巨額の税金への理解も獲得するためには、絵に描いたような、全アメリカ人が愛する偶像を具現化した男たちが必要だったわけです。

多様な出自、背景を持つ宇宙飛行士たちの共通点は、大空を飛ぶことを愛し、その頂点である宇宙飛行士を目指して勉強と訓練を重ね続け、心技体すべてを兼ね備えていた、つまり先述の条件を満たしていたということと、そしてかなり相当とてもめちゃくちゃ個性的だったということ。

宇宙から帰還したあとは実業家、政治家、宗教家とさまざまに転身した飛行士たち、立花氏はそんな彼らの個性を巧みなインタビューで引き出しています。

当時、米国の宇宙計画の中心地であったNASAは、その事業の性格上、科学者や技術者などの理系の人材が多勢を占めていました。

それもあってか、計画を終えて宇宙から戻ってきた宇宙飛行士たちに対するインタビューは技術的な内容に終始し、彼らの内面—哲学的、宗教的な思考—の変化に対しては特に触れられなかったようです。

そのため、むしろそちらに振り切った立花氏のインタビューは、地球を宇宙や月から俯瞰するという究極の経験をした飛行士たちを大いに刺激しました。

宇宙飛行という経験が彼ら個人々々にとってどのような経験だったのか、それが彼らの思考をどのように変え、後の人生にどのように影響していったのか……。

立花氏の綿密な取材から得られた周辺情報と合わせて供されるこの物語は、とにかく圧倒的で、思春期に本書を手にしていたらならばその多くは宇宙を目指してもおかしくない(いやむしろ目指さないとおかしいと思えるくらい)ほどです。

考えてみれば、この地上で経験するほんのささやかな出来事でさえ人の生き方に何かしら影響を与えるものですが、宇宙空間からまるごとの地球を俯瞰するという極限の経験(宇宙に行くという確固たる目標を立て、ふつうの人間ならくじけてしまうような訓練と勉強を長年重ねるという工程も含め)が、影響を及ぼさないはずがなく、しかしそれがこれほど大きなものだったと知ってしまうと、「自分も体験してみたい」と思わずにはいられないんですよね。

実際、僕は宇宙に行きたいなんて微塵も思っていませんでしたが、この本を読んだ今では、前澤さんが非常に羨ましく思えます(ISSからは地球をまるごと俯瞰することはできませんが、それでも凄まじい経験であることに変わりはありません)。

R.I.P 立花隆氏

aw

Live in Tottori-Pref, JPN. Love Camp, Sandwich, Coffee, Beer and Scotch on the rock. Pursuing Self-Sufficiency Life.

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