高断熱・高気密な住宅について学んでみた

先日、仕事で、高断熱・高気密住宅について話を聞く機会がありました。夏は涼しい家、冬は暖かい家というのは、僕にとって関心のある話です。なぜならば、僕たちが今暮らしている家が、夏は非常に暑く、冬は非常に寒い家だからです(笑)。




NE-STとRe NE-ST

僕が暮らす鳥取県には、とっとり健康省エネ住宅という高断熱・高気密住宅の基準(新築は「NE-ST」、リフォームの場合は「Re NE-ST」)が設けられています。

鳥取県とっとり健康省エネ住宅NE-ST(ネスト)とRe NE-ST(リネスト)

今回、NE-ST/Re NE-STについて中心となってお仕事されている鳥取県職員から、成り立ちや基準の詳細について話を聞くことができたんですが、まず感じたのは「なんて羨ましい」(笑)。

我が家の場合、使う部屋ごとにエアコンやその他空調機器を稼働させないと、春や秋など落ち着いた気候の時以外は、とても屋内で過ごすことはできません。試合前の格闘家が水抜きをしたり、新しく購入したダウンジャケットの性能を試したいならピッタリですが、本当に夏は暑く、冬は寒いんです。

一方、NE-ST/Re NE-STの家の場合、レベル(後述)にもよりますが、6畳用のエアコン1台を稼働させるだけで家全体が涼しくなる/暖かくなるとのことで、一説によると、料理に使うガスを1つ点火しておくだけで屋内が暖まるとか……もはや同じ「家」とは思えません(笑)。

我々が暮らす家にとっとり健康省エネ住宅の基準を反映させるとしたら、リフォームのRe NE-ST。担当者の方に、どれぐらいの規模の改修になるかと尋ねてみたら、我が家のような築年数50年以上の家(断熱、気密という概念が組み込まれていない家)の場合、非常に高額な工事になるのではないかとの返答。ま、そりゃそうですよね。

ちなみに、現在の国の省エネ基準が定められたのが平成11年。それ以降に建てられた住宅に関しては、基本的に1〜2日間という短い期間で終わる工事でRe NE-ST基準を満たす断熱・気密性能を得ることができるようなので、ご興味のある方は是非。

NE-ST/Re NE-STについて

ちょっと順番が前後してしまう気がしないでもないですが、せっかく県の担当者の方からいろいろとお話を聞くことができたので、NE-ST/Re NE-STについて少し紹介しておきます。

先述の国の省エネ基準(平成11年)とは別に、現在国が進めている基準にZEH(ゼッチ)があります。

ZEH

ZEHとは、net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味になります。つまり、家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家ということです。これを実現するためには、使用するエネルギーの量を大幅に減らすことが必要となります。とはいっても、暑さや寒さをガマンするというわけではありません。ZEHは、家全体の断熱性や設備の効率化を高めることで、夏は涼しく冬は暖かいという快適な室内環境をたもちながら省エネルギーをめざすのです。
—出典: 経済産業省 資源エネルギー庁

ZEHは、今からおよそ10年前の2014年に「2020年頃に新築木造住宅の標準化を目指す」ことが閣議決定され、推進されてきました。2030年には義務化されることが決まっています。

このZEHを上回る断熱性能と、ZEHにはない気密性能の基準を定めたのがNE-ST/Re NE-STです。

鳥取県とっとり健康省エネ住宅NE-ST

断熱性能は、屋内の暖めた空気を外に逃さないようにする能力のこと。屋根、天井、床、壁、窓など建物の「部位」とそれぞれに使われている「素材」の熱の伝わりやすさ、これらで構成される「家そのもの」からの熱の逃げやすさなどを元に計算されます。

一方の気密性は、隙間の有無を評価します。例えば、熱を通しにくい素材を使用していたとしても、隙間が大きければそこから外気が入り込んでしまいます。気密性が高いということは、この隙間が少ないということです。

この断熱性能(U値)と気密性能(C値)、双方を高めることによって、エネルギー消費の抑制と快適な住空間という相反する2つが両立できるわけです。

こう聞くと、ZEHに気密性の基準がないのが不思議なくらい、どちらも必須なもののように思えますよね。

ですが、気密性を高めることによって、問題といいますか、テクニカルに解決すべき点が生じることもあるようです。

例えば、気密性を高めることで住宅内部が負圧となり、雨漏りしやすくなるケースがあるそう。ただ、これは施工の仕方でクリアできるとのこと。

他にも、キッチンの換気扇を回すと玄関が開けられなくなるとか、寝室の二酸化炭素濃度が高まり過ぎるとか、薪ストーブに火を入れる際に着火しづらくなるといった問題も報告されているそうです。

高気密住宅は24時間換気されるよう設計されます。その換気方法は様々ですが、例えば上記のような問題が生じる理由として考えられるのは、個々のケースに必要な空気を供給する給気口が設置されていない、というものです。つまり換気扇用、寝室用、薪ストーブ用の給気口が必要だと。こうした状況に対処するためかどうか定かではありませんが、屋外から給気して屋外に排気する換気扇や薪ストーブも開発されているようです。

天然の給気口が無数にある我が家では考えられない話ですが、こうした話を聞くと、気密性を高めるには相応の知識と技術が設計側に求められるため、気密性の基準値を定めて義務化し、これを全ての事業者に求めるのは厳しいと国が判断したのでは(だからzEHには気密性能の基準がないのでは)と思えてしまいます。

気密性能を満たすために換気と給気のバランスを計算したり、下の図なように家の中の空気の流れを考えて効率的な空調を実現させるわけですから、設計士というのはすごいですね。


画像出典:「パッシブハウスはゼロエネルギー住宅―竪穴住居に学ぶ住宅の未来

気密性能が高いゆえに生じるもう一つの問題は、暖房器具の選択肢が狭まるという点です。

密閉された空間で換気をせず石油ストーブや石油/ガスファンヒーターを使うと、一酸化炭素中毒の恐れがあるのは多くの人が知っています。

高気密な住宅は密閉されてはいないものの、設定した量だけの空気が排気・給気されるようデザインされているため、これらの暖房器具を使うと給排気のバランスが崩れ、やはり一酸化炭素中毒の危険性が生じます。そのため、県の担当者も「使えない」という言い方をされていました(ただし、先述の換気扇同様、屋外から給排気するFF式なら問題ないとのこと)。

また、石油ストーブやファンヒーターは水蒸気を排出するため、室内の湿度を高めます。湿度が65%以上になるとダニやカビの活動が活発になるので、今度は湿度にも気を配る必要がでてきます。除湿機を使うという対策もありますが、多数の電気機器を使うと省エネという方向性から逸脱しかねません。

NE-ST/Re NE-STは空調機器としてエアコンを使う前提で設計された基準なので、「エアコンは嫌い」という人は注意が必要です。

家は気候を調整する装置

人間が洞窟から出て自分たちで住居をつくりはじめた時から、野生動物といった外敵に加えて風や雨、気温から身を守るために家を進化させてきました。


(この動画を見る限り、我々キャンパーがやってることは、紀元前1万1000年前の暮らし方の再現ですね笑)

この動画には日本の住居は出てきませんが、主に「高床式住居」、「竪穴式住居」、「平地住居」の3つが古来日本で使用されていた住居です。

高床式住居は湿気に強い構造だったので倉庫として使用され、その後神殿に活用されて神明造の基礎となります。

他方、竪穴式住居は人が暮らす家として使われましたが、その最大の特徴は、高床式と真逆で、床を地面から離すのではなく、掘り込んでいって地面の深いところを床として使うという点です。これは「地面の中は温度変化が少ない」(10メートルも掘ると一年中温度が変わらない=恒温となり、その地域の年間平均気温とほぼ同じになる※1)こと、そして「地熱を利用して暖かい住環境をつくるため」という理由があるようです。

同じ竪穴式住居でも、北に行けば行くほど穴が深くなり(最大で2.5メートルもあったそう)、屋根に煙を逃す穴や隙間が無くし、しっかりと土を被せて植物まで植えていた(屋上緑化!)ということですから※2、昔の人も断熱性や気密性を大切にして家を建てていたのかも知れません。


画像出典: 奥羽:温故知新

ですが、深い穴を掘るというのは大変ですし、適した地面の場所ばかりでもなかったでしょうから、だんだんと平地住居に移行していき、家だけで快適に暮らすための試行錯誤が現在に至るまで続けられている、というわけです(多分)。

涼しくて暖かい快適な環境は、地球上のほとんどの地域で住宅に求められる機能だと思います。厳しい気候になればなるほど、以前取り上げた韓国式の床断熱「オンドル」のように、実験と工夫が重ねられて、地域にあった快適な環境を生むための機能が生まれます。今回、あの手この手で実験し追求した建築家や研究者の取り組みの歴史をつづった本※2を読んでみて、家というのは、それが建つ地域の気候を調整する装置なんだなと、あらためて感じました。

もちろん、冬場には平均気温が氷点下まで下がるような地域にフィリップ・ジョンソンが建てた「グラスハウス」のように、断熱・気密などが考慮されていない住宅もたくさん建てられています(グラスハウスは天井と床に電熱暖房器具が設置されていて暖かかったそうですが笑)。


画像出典: Twitter

僕も若い頃はこういう見た目がカッコイイ家に住みたいなーなんて思っていましたが、歳をとると変わるもんですね。全くそんなことは思わなくなりました。とにかく暖かい方がいい(笑)。それに、昨今の環境問題やエネルギー問題を考えると、見た目よりも機能性を重視する必要がありますしね。

今回、断熱・気密性能という視点から住宅を考えれる機会を得て、あらためて考えてみると、50年以上前に建てられた我が家、今現在建てられている家とは全く違ってて当然だよなぁと思ってしまいました。インターネット、パソコンやスマホ、AI、電気自動車……50年前には全くなかった製品が当たり前となっている暮らしの中で、その中心となるべき家が変わらないなんてことは、そりゃ無いわけで。

見てください、高断熱・高気密住宅は屋根一つとってもこの複雑さ。

高断熱住宅の屋根の構造
画像出典: 「エコハウス現場写真帖

我が家など、トタン1枚が釘で打ち付けられているだけです(笑)。

いずれテントにもこの波が押し寄せてくるかも知れない

さて、最後に無理矢理このテーマをキャンプに向けてみますと、雪中キャンプを愛するいちキャンパーとして断熱性能を持ったテントなんかあってもいいんじゃないかなと思ったりします。インナーテントがエアーを注入して断熱性能を高める構造になっている、そんなテントが出てきてもいいのにな〜なんて、今回の話を聞きながら考えていました。

キャンプを楽しむ人が多ければ多いほど、広がったマーケットに多様な製品が登場する可能性が高まるわけですが、昨今のブームが加速して、挑戦的なメーカーが高断熱を謳ったテントを出してくれないかな〜。

ただ、最近、ハードオフなどにキャンプ用品を売却にくる人が増えたという情報をSNSで見かけたんですよね。この春に新型コロナが感染症法上での位置付けが変更される影響があるとかないとか……。キャンプブーム終焉のはじまりでしょうか。

aw

Live in Tottori-Pref, JPN. Love Camp, Sandwich, Coffee, Beer and Scotch on the rock. Pursuing Self-Sufficiency Life.

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