また飛行機に乗れるようになった話

先日、東京に行ってました。今の僕の礎となっている「2つの場所」で出会った人たちとの時間を楽しんできたんですが、今日の本題はそれではなく。

今回の東京は往復路ともに飛行機で行ったのですが、僕の中ではかなりの挑戦だったんですよね、実は。


しかしそれにしても、都会ではアップルウォッチがあれば何でもできますね

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それがなぜかについて書いていきます。
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空の上じゃなく、海の中でパニクった

忘れもしない、2013年6月27日。

僕は沖縄県島尻郡久米島町におりました。那覇から飛行機で40分ほどにある久米島という島です。

目的はスキューバダイビング。当時、僕は年間20〜30本ほどコンスタントに潜っており、総ダイビング本数は200本ちょっと。まあ、多少の経験はあるかなってくらいのダイバーといえます。

久米島で潜るのは初めてでした。ダイナミックな景観、深さや流れを好むハード系ダイバーなかつての同僚たち(とはいえそれほど仲良しではない)と潜るのも今回が初めて……という条件がこの日の僕のダイビングにどう影響したのか — 多分、自分でも気づかないうちに緊張を高め、それが今までにない水中での体験へとつながっていったのだと思います。

ダイビングに詳しくない人にも分かるように説明するとこんな感じです。

  • 初めてのガイド、初めてのパーティ、初めてのポイントと初めて尽くしのダイビング
    • 初めて尽くしだとリラックスするのが難しい=緊張状態になる
    • 緊張状態だとエアの消費量が多くなる
  • 深さがあり、流れもあるポイントでのダイビングは……
    • 深く潜るとエアの消費量が多くなる
    • 流れがあると運動量が増えてエアの消費量が多くなる
  • エアの消費量がどう影響するかというと……
    • ダイビングは1本(回)あたり40〜60分ほどだが、タンクのエア残量が少ない人に合わせて終了する(1本あたりの時間が長くても短くても支払う代金は同じ)
    • 同じ時間潜っていても、エア残量が半分以上ある人もいれば、殆どゼロになってしまう人もいる
    • つまり、エアの消費量が極端に多い人はパーティ全体のダイビング時間を減少させるので嫌われる傾向にある

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より簡単に書くと、まあこういうことです。

緊張 → エア消費量の増大 → 仲間に損失を与える → 嫌われる → それはヤだ → 緊張(以下、ループ)

さて、潜ったポイント「アンマーテンブス」はその日、それほど流れは強くなかったんですが、パーティはすぐに20メートル以下まで深度を下げました。

最初はふつうにダイビングを楽しんでいたのですが、しばらくすると、なぜか息苦しさを感じるようになります。

いくらエアを吸っても肺が満たされない気がして、しぜん呼吸が早くなりました。エア残量が気になってチェックすると、まだ15分も経っていないのに半分くらいに減っています。「このままだと、とんでもなく短時間で1本目が終わってしまう」という焦りと息苦しさで過呼吸のような状態に。

「息ができない」
「窒息して死んでしまう」

これまでに体験したことのない強い恐怖を感じ、とにかくその場から逃げ出したい衝動に駆られました。

すぐに、息ができる場所=海面に浮上することを考えましたが、水深20メートルから一気に浮上すると減圧症という恐ろしい病気になってしまうことを思い出し、踏みとどまります。

水深10メートルあたりまで少しずつ浮上し、水深を維持しながらパーティから離れないように泳ぎ、気持ちと呼吸を落ち着かせることに成功。僕の異常に気づかないまま徐々に水深を上げてきたパーティと合流し、何食わぬ顔でそのダイビングを終えました※1

ホテルに戻ったあと自分に起きたことが何だったのか調べてみると、パニック発作かそれに似た状態のようでした。

それが起こりやすい場所として飛行機や電車などの密室空間が挙げられていて、すぐにその状況から脱することができない海中はある意味で密室空間とも言えるなと納得したわけですが、自宅に帰るために飛行機に2本乗る必要があることを思い出し、「帰りの機内で同じ状態になってしまったらどうしよう」という不安に襲われることになります。

飛行機に乗ると動悸と発汗

自分がパニック状態になったのは海の中であって、その理由も分かっています。とはいえ二度とあんな経験はしたくないという思いから、飛行機に乗ることに強いためらい(予期不安)を感じました。

しかし結局、僕はフェリーといった代替手段をとることなく、飛行機に乗り込みました。

結果、僕以外の誰かに気づかれるほど取り乱すことはなく、無事に2本のフライトを終えて地元鳥取に帰ってくることができました。

しかし実際には、席に座ると強い動悸と発汗を感じ、搭乗口が閉まって離陸するまで「ここで降りたいと言えば降りれるんじゃないか」「怖さのあまり叫び出してしまったらどうしよう」といった不安に支配される時間は本当に恐怖でした。

鳥取に帰ってきた時は、もう飛行機に乗ることはないな、そう思いましたね。

その後、時間の経過とともに恐怖心は薄れてきたものの、どこかへ出かける時はできるだけ陸路を選択。台湾や沖縄、東京など何度か飛行機に乗ることはありましたが、ほぼ全てのフライトがトム(妻)や娘、同僚たちと一緒でした。

誰かと一緒だと気分が紛れて多少落ち着いて搭乗できましたが、一番厳しい時は、ひとりで飛行機に乗ることを考えるだけで動悸や発汗を感じていたので、一人で上京する時は飛行機よりお金も時間もかかるのに、陸路(バスと新幹線)で行くようになっていました。

娘に広い世界を見せてあげたいと願いつつ飛行機を忌避する自分、というこの矛盾をなんとか解消したいと思っていたところにコロナがやってきて、地元を離れないことが正当化されてしまい、この2年間、僕の飛行機克服願望は忘れ去られていました。

多分克服できたぽい

今回の上京も最初、陸路で計画を立てようとしたんですが、「ここでなんとかしなければ」と、飛行機のチケットを予約。購入から搭乗までおよそ1か月、僕の中で禅問答のような自問自答が繰り広げられていました。

「すでに自分は飛行機のチケットを購入した。乗ることが決まったのなら、もうすでに飛行機に乗っているのと同じだ。いま動悸や発汗がないなら、飛行機の中でも出ないはず」

「搭乗口が閉じる前に、今ならまだ降りれる! と思ってしまうけど、実際のところ降りる必要ないよね? むしろ、必要があるから乗ってるわけだし」

「自分がパニック状態になったのは海の中だった。確かに原因となった息苦しさや水深20メートル以上といった環境は危険だったし怖かったが、アレは海の中で起きたことだ。飛行機の中で不安を感じることはあるけど、どうだ? 実際にパニック状態になったことはないだろう? これまでもなかったし、きっとこれからもないはずだ」

……そんな問答は空港で搭乗直前まで続きました。

通路側の席を予約することで機内への搭乗時間を遅らせて※2、これまで自分が不安を感じていた時間を物理的に減らしつつ、搭乗後は気を紛らわすために高難度のナンプレに挑戦しつつ、ゆるやかな腹式呼吸で呼吸を整え、アップルウォッチで脈拍数を測定し自分が平静であることを視覚的に理解するなどして、自分を落ち着かせました。

そんなこんなで往路は多少の不安を感じはしたものの、自分でも驚くほどあっさりと離陸→着陸。復路はもう全く不安を感じることなくフライトを終えました。

帰りの便に搭乗する前は、「もしまた不安を感じたら、これを見て気持ちを落ち着かせよう」と、娘に買ったお土産をポケットに忍ばせていたんですが、出番はなし、でした。


飛行機の中で汗をかきながら、これを凝視している中年男性がいたら怖いですね

まだ少し苦手意識が残っているような気もしますが、多分、あの日以来感じていた極度の不安感はもう消えたと思います。

何をもって改善されたのか自分でもよく分かりませんが、繰り返した禅問答が、自分が不安に感じていることを認めつつ、不安の原因が実は存在していないということを腹落ちさせていくような、そんな作業になっていたような気がします。

そして、振り返って考えてみると、久米島からの帰りに海路に切り替えなかったのはとても重要だったように感じています。素人の考えではありますが、あそこでもし飛行機に乗っていなかったら、もしかしたら僕は二度と飛行機に乗れていなかったかも知れない、なんて思っちゃうんですよね。

今後は利用数を増やして飛行機に乗っても問題ないことを確認して強化しつつ、家族と一緒に世界のおいしいサンドイッチを食べに行きたいですね。まずは近場の韓国とか。

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厚生労働省 「パニック障害・不安障害

  1. 本来ガイドダイバーはパーティ全員の動向、状態を細かくモニタリングしておく必要があるわけですが、僕がパーティの中で最も本数をこなしていたダイバーだったこともあり、また元同僚が懇意にしているガイドだったこともあり、僕に対するチェックが疎かになっていたと考えられます。もし僕に健康被害等が生じていたら問題になっていたでしょうね。
  2. ANA 「搭乗案内方法について

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Live in Tottori-Pref, JPN. Love Camp, Sandwich, Coffee, Beer and Scotch on the rock. Pursuing Self-Sufficiency Life.

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