Most Likely to Succeed / What School Could Be

昨日、ひと月遅れで娘の3歳児健康診断を受けてきました。特に問題なし、ありがたいことです。

娘が無事、健康に成長してくれていることに日々喜びを感じながらも、一方で10年後、20年後、今とは激変した世界情勢や社会構造の真っ只中を生きることになる娘のために、どんな教育やその選択肢を与えることができるのか、かなり不安を感じています(もともと心配性ゆえ)。

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娘に対しては、以前の記事にも書いたように、

立派な人になってほしいとか、ビジネスで成功してほしいなんてことは1ミリも考えていません。彼女が生まれた時に感じた「健康で生まれてきてくれた、ただそれだけで最高」という思いは今も変わっていないし、だから彼女が自分に自信を持って堂々と生きてくれたらそれでいいんです。

という気持ちは変わっていません。

今のところ娘は健康で元気に育っています。とはいえ、だからと言って何もしないでいいとは思わないし、やはり親として自分たちができる範囲で(最善と思える)環境や選択肢を与えてあげたいと思うわけです。

ごく一般的に言われている未来

先日の地元紙に、2019年1月の時点で鳥取県の人口が55万人台となり、昭和21年以来の少なさを記録したという記事が載っていました。

僕も属する「団塊の世代ジュニア」の女性たちが40代を迎えて出産期を過ぎると出産可能な母体数は激減するため、人口減少は今後、加速度的に進むと考えられています。

内閣府の統計および推計では、現在の人口減少の速度は10年間で約1%と緩慢に見えます。しかし、2020年から2030年にかけては6%、2050年から2060年にかけては10%を超えます。


画像出典:内閣府

今から29年後の2048年には日本の人口は1億人を割りますが、恐るべきはその年齢構成で、総人口に占める60歳以上の割合は45%超。およそ2人に1人が60歳以上になるわけです(その中に僕も含まれます)。

凄まじい人口減少と高齢化に加えて、現在すでに社会に組み込まれはじめているAIやロボティクスといった技術が、完全に社会、産業、生活の中核となっていくことは間違いなく、世界的に金融や貿易の仕組みが変わり、途上国や新興国も経済的に隆盛するなど、もう、どうなっているのか想像もできません。

その頃、もし生きていれば後期高齢者になっている僕は、時代の流れにただ流されてゆらゆらと漂っていることでしょう(後期高齢者になっているとはいえ、働いて所得を得る必要はあるでしょうが)。

しかし、娘はそうはいきません。

何か自分たちにできることはないか。いつも考えているわけですが、はっきり言ってノーアイデアの状態です。

ヒントを得る

Ken Robioson

「TED」は、僕が毎日のように見ている動画のチャンネルです。その中でも特に感銘を受けたプレゼンテーションがあります。

イギリス在住の教育アドバイザーであるKen Robinsonさんのプレゼンテーションは英語ですが、字幕も表示されますので多くの日本人に見てほしい内容です。

彼は言っています。

「各分野のエキスパートを揃えても、5年後の未来を予測することはできない。その予測不可能な未来へと子どもを導くのは、教育だ」
「子どもたちが受けている教育は、正しさ(正解)だけを求めるものだ。失敗はダメなもの、してはいけないものと学ぶ。未来は不確実で何が正解か分からないのに」
「幼い子どもは失敗を恐れない。とにかくやってみる。失敗することと創造的であることは同じではないが、失敗することを恐れると、創造性や独創性も失われる」
「創造する力は、識字力と同じように扱うべきだ」

Ted Dintersmith

Future Edu Tokyoという一般社団法人があります。

STEM(STEAM)(*1)の重要性をいち早く日本国内で唱えたり、米国の先進的な学校「HIGH TECH HIGH」を紹介したり、その他様々な視点・角度から教育についての情報や意見を発信してくれている団体です。

前職で同僚だった竹村詠美さんという女性が主宰されていることもあり、以前から活動に注目し、発信されている情報には目を通してきました。

このFuture Eduが力を入れて紹介し、上映会を主催・援助しているのが、映画「Most Likely to Succeed」です。

この映画のエグゼクティブプロデューサーをつとめるTed Dintersmithさんが昨年来日され、(何かと話題の)東京都千代田区の区立麹町中学校で基調講演をされたのですが、その動画がYouTubeで公開されています。

Dintersmithさんは2018年春に「What School Could Be」という書籍を出されています。2015〜2016年に全米全州の200の小中高校を訪問し、そこで得られた知見ーこれからの時代にふさわしい教育の取り組みを紹介するという内容なのですが、これをベースにしたプレゼンテーションです。

ここでもハッとするような言葉を聞くことができます。

「現代の教育では、子どもたちが3つの基本的な訓練しか受けておらず、これをこなすことで褒められていることに気づいた。その3つとは、『暗記すること』、『簡単な処理を繰り返すこと』、『指示に従えること』です。そしてこれは、今後凄まじい速度で進化する機械インテリジェンス(AI)の得意分野なのだ」
「その意味において、これまでの教育は12年から16年かけて、子どもたちをロボット化してきた」
「高度な機械インテリジェンスを備えたロボットは、安価でほぼ完全。しかしロボット化した大人たちは、高価で不完全」
「そんな子どもたちが将来どうなるかと言えば、自分が何に興味があり情熱を注げるのか分からず、創造性や発明思考をなくしてしまう」
「驚くほど早く学び、対応し、失敗や曖昧さを恐れない。これが子どもたちだ。これからの世界で活躍するのは、こうした『大人たち』なのだ」

Dintersmithさんはもともと、テクノロジー系のスタートアップ企業などに融資するベンチャーキャピタルに従事していましたが、その仕事を通じて将来、社会が大きく変わることを確信。その一方で、何も変わっておらず、将来の変化に対応しているとは言えない現在の子どもたちへの教育に強い危機感を覚え、現在の活動を始めたそうです。

前出の映画「Most Likely to Succeed」の舞台となっているチャータースクール(*2)「High Tech High(HTH)」は、世界的に注目されているアメリカの学校。

HTHでは教科別の時間割りや決まった教科書、定期試験がなく、教師が定めたテーマに基づいて行われる課題解決型学習(Project Based Learning)が授業の中心となっています。

「それで大丈夫なの?」と思ってしまいますが、州が実施するテストの成績は平均を上回り、大学進学率も100%に近いそうです。

教師が与える情報を生徒が聞いて覚えるのではなく、プロジェクトを通じて教師や生徒たちがインタラクティブ、つまり双方向に情報を交換することで自主的に学べるようになっています。生徒たちはたくさん対話し、とにかく楽しんでプロジェクトに参加するため学ぶスピードも早く、何より学習の主体、中心が生徒たちになることが特徴のようです。

うーん、スゴイ。

もう少し詳しく知るために、ひとまず、Tedさんが書いた2冊の本をしっかり読んでみたいと思います。

まず自分のアタマを切り替えねば

Tedさんが触れている3つの能力は、戦後の復興期から高度経済成長を遂げた20世紀後半、いわゆる人口ボーナス期(*3)の労働力となる子どもたちにとっては有用な教育=社会に出るための準備だったと言えます。

しかし、現在は人口ボーナス期の逆、人口オーナス期(*4)。高齢者に対する従属人口(16〜64才の労働力となる年代人口)の比率が、人口ボーナス期に比べて低く、経済が停滞しやすいと言われています。

日本が労働力不足に陥っているこの時期に、ロボティクスやAIが発展しはじめているのはある意味では幸運とも言えますが、これらに代替される能力しか持たない人間は、Tedさんが言うように”世の中を漂流してしまう”のかも知れません。

昨年(2018年)から移行措置が始まり、2020年の小学校での全面実施を皮切りに2024年まで段階的に実施されていく新学習指導要領(*5)も、こうした時代の流れや変化に備えてのものですが、さて、どうでしょう。ニュースになるほど過重労働になっている学校の先生に、(小学校であれば)たった2年〜4年で「大改革」が準備できるのでしょうか。

いずれにせよ、娘が小学校に通うことになる4年後には、小学校、中学校、高校で”「主体的・対話的で深い学び」を取り入れた授業が実施され”、”教員による一方通行の授業から、生徒自身が主体的・能動的に参加する授業・学習”(*5)に切り替わっているはずです(この言葉だけ見れば、HTHと変わらないように思えます)。

.

ところで、かく言う僕もまさに人口ボーナス期に生まれ、育ち、教育を受けてきた人間のひとりです。

アタマの中はザ・昭和。

教育は学校だけで受けるものではない! と分かってはいても、ザ・昭和で凝り固まっているアタマの僕に、果たしてどこまでのことができるのか……。

以前働いていた会社で(特に会社が立ち上がってまもない頃)、日本人なのか外国人なのか分からない、まさに地球人としか言えないような規模感の、しかも驚くほど優秀な人たちと仕事する機会に恵まれました(実際のところ、彼らの優秀さや能力を正しく測ることすら僕にはできていなかったはず)。

娘が、彼らのように優秀ではなくとも、世界中で自由に、自分のやりたいことに情熱を持って、目を輝かせながら日々を楽しく暮らせていけるな人になってくれたらと思いつつ、そこまでいかなくとも、生き方は自分で選んでよく、人と違っていてもよく、世界は広く、楽しいことは山ほどある、ということを学びながら大人になってほしいですね。

そのためには、自分ができる限りそのように生きねば、なんですけどね。

本記事のアイキャッチ画像は、YouTube「「What School Could Be アン/カンファレンス」基調講演:テッド・ディンタースミス氏」をスクリーンキャプチャしたものです。
*1 STEM: これからの教育で特に重要だと言われているScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・エンジニアリング)、Mathematics(数学)の頭文字。STEAMはこれにArt(芸術)が加えられたもの。
*2:チャータースクールとは、「チャーター/charter(特別認可)」を受けて開校する公立学校。運営者や教員、教育方針や生徒の選抜方法などが異なり、様々なタイプがある。アメリカが先進的で、1990年代からスタートし、2009年時点で5000校を超えている。
*3: 人口ボーナス期とは、生産年齢人口(15歳~64歳の人口)」が増え続け、総人口に占める比率が圧倒的に多い状態を指す。安価で豊富な労働力があり、教育費や社会保障費の負担が少ない状態といえる。そのため、国家予算を経済政策に振り向けやすく、また他国からの投資を呼び込めるので、経済が活性化する。(出典:大和ネクスト銀行「人口ボーナス期と人口オーナス期 労働人口増加で成長する新興国とは
*4:人口オーナス期とは、人口ボーナス期で経済発展に成功した後、医療や年金制度が充実して高齢化が進んだ状態。オーナス(Onus)とは、「重荷・負担・責任・義務」という意味の英単語。「支えられる人(高齢者)」が「支える人(生産年齢人口)」を上回り、社会保障費などが重い負担となるため、消費や貯蓄、投資が停滞する。(出典:大和ネクスト銀行「人口ボーナス期と人口オーナス期 労働人口増加で成長する新興国とは
*5:文部科学省「新学習指導要領(本文、解説、資料等)
参考記事
・内閣府 「将来推計人口でみる50年後の日本
・Future Edu 「Most Likely to Succeed上映後の鑑賞者によるディスカッションまとめ
・Future Edu 「High Tech High 訪問記第1話:小学校編 (High Tech High Visit Report In Japanese)
・ベネッセ 「2020年教育改革早わかり

aw

Live in Tottori-Pref, JPN. Love Camp, Sandwich, Coffee, Beer and Scotch on the rock. Pursuing Self-Sufficiency Life.

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4件のフィードバック

  1. curu curu より:

    これからを生きていく子どもたちに、自分は一体何ができるだろう?
    偶然にもいま、関わっている本の仕事で「これからは自分で生き方を決める時代になってきている」という一文が出てきます。とはいえ、子どもたちが自分で生き方を決める、その力を身につけるための「栄養」を、私たち親が与えなくては、と思うのですが、、、。

    でも、この考え方がすでに「ザ・昭和」で、じつは子どもは「そんなもんいらねぇ!」と思っているのかも? と考えてみたり……。んんん〜頭でっかちになり過ぎなのでしょうか。

    たしかに大人になるとなるべく失敗はしたくないし、リスクは避けようとします。でも、それは失敗を経験したからこそ、なんですよね。子どもが失敗を経験するまえに、大人が失敗しないようにとついつい手を出してしまいがちだな、と紹介していただいたテッドさんのコメントを読みながら反省しました。awさん、いつもヒントがいっぱいの記事をありがとうございます。

    少し話が変わりますが、ときどき小学2年生の娘のクラスで絵本を読む機会があり、先日は長新太さんの「キャベツくん」という絵本を読みました。
    大人が読むと「え? なんで?」と言いたくなるような内容でも、子どもたちはただただ、おもしろくって大喜び! 子どもたちにはいつまでも、やわらかく、しなやかな脳みそで、自由さを纏いながらナンセンスを楽しいんでほしいと思います笑。

    • aw より:

      curu curuさん、いつもコメントありがとうございます! 🙂

      本当に難しいというか、考え過ぎてもいけないのでしょうし、考えなさ過ぎなのもいけないのでしょうし、バランスが、、と考えてるのも考え過ぎなのかも知れませんね(笑)。

      僕は40才で再婚して初めての子どもを授かったということもあって、同年代の友人・知人たちの子どもはすでに大きくなっていて、中には結婚して子どもがいる(つまり同級生には孫がいる!)人たちが多いのですが、経験談などを多く聞くことができてとても助かっています。

      一方で、「教育」という点で話をすると、ザ・昭和な考え方、価値観で固定されている話が多いと感じることもあり、新しい情報や違った見方、考え方などは、ネットや書籍を通じて得るしか方法がありません。

      どちらが正しい、間違っているというよりも、情報が更新されないままの偏った状態が続いていて、自分たちで判断するとしてもなかなか情報が不足しているなと感じる日々でして。その思いがこの記事に繋がったわけですが……。書きながら勉強不足を痛感しました。日々、子どもと一緒に自分たちも学んで、成長しなくてはいかんですね。

      小学校で読み聞かせをされてるんですか? なんだかすごい! キャベツくん、気になるので今度書店で見てみます。小学校で読まれてるくらいですから、3才の娘には少し早いですかねぇ。

      curu curuさん、冒頭にも書かれていますが、書籍関係のお仕事をされてるんですかね。僕は本の仕事はしたことがないのですが(若い頃に、書店でアルバイトしたくらいです(笑)、本は大好きです。

      子どもにも毎晩絵本を読んでいますが、自分のほうが楽しんでるくらいです(笑)。

      が、明るいとなかなか寝付かないので、最近は暗くして僕の空想話を聞かせています。でも、これが難しくて難しくて。ストーリー展開もしょぼいし(笑)、言葉づかいも子どもの年齢に合ってないことが多いし(笑)。ただ、子どもは「もう1回!」となぜか喜んでくれてます。子どもたちの自由でおおらかな感性を大切に、寄り添いながら、親も子どもも楽しんでいけたらと思ってます。

      こちらこそ、素敵なコメントをいつもありがとうございます 🙂

      • curu curu より:

        小学校にあがる1、2年まえあたりから、ピアノや水泳、英語や公文などの習いごとをはじめる子どもたちがふえて、わたしも最初、「プールに通うと風邪をひかなくなるらしいよ、プールがいいんじゃない?」とか、「小学校でも英語の授業がはじまるから、英語の教室に通うのはどう?」と、かなり前のめり気味になった時期がありました。でも、娘が自分で決められるようになってからでいっか! と考え直しました。それからは日々のくらしのなかの小さなことも自分で決めさせる、をくりかえすことを、たいせつにするようになりました。
        キャベツくん、ぜひ娘さんに! きっと楽しめると思いますよ。長新太さん、子どものころから夢中でした。歩道橋が歩き出したり、アザラシに襲われたり、今思えば「???」だらけですが笑。
        学校での読み聞かせは保護者ボランティアの一環で、始業前の10分、娘のクラスに入るときもあれば、そうでないときもあります。ほかにも算数の丸つけだったり、理科の実験のお手伝い、家庭科のミシンの使い方を教えたり、といったボランティアもあります。
        わたしは家でブックデザインの仕事をしています。朝のその時間であれば自分にも無理なくできるし、そういう時間をもつことは自分にも仕事にもきっとプラスになるだろうと始めました。一冊の本を20名ぐらいの子どもたちと一緒にみて、読んで、感想を言い合うのですが、子どもたちの観点には毎回驚かされることばかり。そして何より自分が楽しい!
        子どもといっしょに何かを楽しむ時間、子どもが成長するにつれて、どんどん少なくなってしまうのかな? と思うと、とてもさみしくなります。今のうちにできるだけたくさんもてるようにしたいですね。

        • aw より:

          curu curuさん、コメントありがとうございます。

          お気持ち、分かります。僕の娘はまだ3才ですが、習い事をふくめ、どのような体験や教育を与えてやるべきか考えることがあります。ただ、curu curuさんのおっしゃるように、一方で同時に娘本人が関心を持って自分からやってみたいと言い出した時でも遅くないかなと思ったりもしています。

          保育園から歩いて帰る道すがら、スクール併設のピアノ屋さんがあって、娘がいつも立ち止まってピアノを眺めているんですね。ここでピアノを習ってる友人の娘さんがいて、「◯◯ちゃんみたいに習ってみたい?」と尋ねたりすると「家にあるから大丈夫」(0才の時から使っている小さな鍵盤のことなのですが)。例えばそこで「大きなピアノを弾いてみたい」とか「◯◯ちゃんみたいに習ってみたい」みたいなことを本人が言うようであれば、こちらも対応しようかなと。今はそんな感じで考えてますね。

          ブックデザインのお仕事をされているんですね。僕も大昔ですが、レコード会社と個人事務所でグラフィックデザインの仕事をしていたことがあります。経験年数としては2年間ほどなので、キャリアに加えるのはおこがましいのですが、それもあって、やはり書籍や雑誌などのデザインはいつも気になっています。きっと素敵な作品をつくられているんでしょうね 🙂

          本読みのボランティア活動、いいですね。そうした時間から大人が学ぶこと、感じることも多そうですし(むしろ大人のほうが学びがありそうな気もします)、何より楽しいというのが本当に素敵です。

          子どもとの時間、本当に貴重ですよね。忙しい時などに手がかかってしまって「早く成長してくれないかな」と思うこともあったりしましたが、今はcuru curuさんのように感じていて、とにかく今この時を愛しむようになりました。本当、できるだけたくさんの時間、体験を共有していきたいです。

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